鴨居・観音崎のむかし話

鯨つき

たたらの浜 おまんぎつね  鵜と大蛇(おろち)と観音様 江戸もどり  土左衛門と海坊主 海賊退治


 昔、この鴨居に毒竜丸という海賊船が出没し、村人達が恐れさせたが、まもなく領主の
多々良良春に滅ぼされてしもうた。
 首領の夜叉太郎は殺されたが副首領の島の浪六は降伏して、船守観音の堂守としてく
らしておったそうじゃ。(詳しくは、海賊退治へ)
 もともと浪六は、大島の漁師じゃったが、夜叉太郎にさらわれて、彼の手下になっておっ
たそうじゃ。
 一緒に降伏した手下達も鴨居の領民となってそれぞれ暮らしておったが、もとがもとだけ
に村人たちとの付き合いも遠慮がちで、ひそかに海を懐かしんでいるようじゃったと。
 今日も今日とて、浪六はなす事も観音山に上り、海を見つめては大きなため息をついて
おったそうじゃ。すると鴨居の里の方が騒がしくなって人々が海を指してわめきあっておる
んだと。
 浪六が小手をかざして沖の方を見ると「フカ」に負われた大きな鯨が浜に向かって泳いで
くるではないか。これを見た浪六は、急に元気づき「ヨシッ」とばかりに観音堂を飛び出ると
まっしぐらに良春の館に駆けつけ、鴨居全村の漁師を集めるようにお願いしたそうな。
 半時もたたないうちに、鴨居の浜には数十艘の小船が集まり、これらの小船は浪六の支
持に従って、鴨居の港を遠巻きにして鯨の逃げ道をふさいでしまったそうじゃ。
 浪六はかつての海賊船「多々良丸」を借り受けると、元の海賊たち九人を連れて乗り込み
一人は舵を、二人は櫓をあとの六人は大型の「銛」を持たされて左右の船端に並び立たせた
そうじゃ。
 船長格の浪六が船の舳先に突っ立ち、九人はそろいの白い向こう鉢巻に赤いふんどし、
ひきしまって日焼けした赤裸で向かう姿は、まるで仁王様のように勇ましく、それはそれは
頼もしく見えたそうじゃ。
 領主の良春が「鯨とり」の様子を見ようと、家来を従えて館の高台に立つと、小船に乗り
込んだ漁師たちは勇気百倍、どっと船端を叩いて喜び、勇みに勇み立ったそうじゃ。
 やがて、数多く群がる小船の間から颯爽と走り出した「多々良丸」は鯨の周りを一回りす
ると、ゆっくりと鯨に近づき、十数メートルまで漕ぎ寄せたかとみるまに、左舷にいた三人が
力いっぱい一斉に鯨の腹に向かって「銛」を投げ付けたそうじゃ。
 「銛」は三本とも見事に命中し、さすがの大鯨もたまりかね、破れがねのような吼え声を上
げると尾びれを振って跳ね回ったので、あたりは小波のような白波が渦巻いたそうじゃ。
 「多々良丸」もこの渦の中に巻き込まれてしまうのではないかと思われたが、そこは鍛え
に鍛えた連中だけに巧みに船を交わし、鯨を右に見たかと思うと、今度は右舷の三人が一
斉に「銛」を打ち込んだそうな。
 鯨は雷かと思うような吼え声とともに、滝のような潮を天高く吹き上げ,あたりの海面を鮮
血で真っ赤に染めたそうじゃ。
 やがて、さすがの大鯨も二度の投げ銛にはたまりかねたのか、狂い回るのをやめ、浮きつ
沈みつしはじめたそうな。
 これを待っていた浪六は「頃はよし」とばかりに鯨の背中に飛び乗ると、大きな「銛」を振り
かざし、急所めがけてズブリとさし込んだそうじゃ。
 吹き出す血に真っ赤に染まった浪六は、鯨の背に立つと良春の館に向かって誇らしげに
鯨突き成功の合図をおくったそうじゃ。
 この後、領主の良春に呼ばれ、お褒めの言葉をいただいたかつての海賊たちは、大いに
面目をほどこし、それからはいっそう村人たちに大切にされ、頼りにされるようになり、寂しい
生活を送らんですむようになったということじゃ。


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