鴨居・観音崎のむかし話
おまんぎつね
昔、鴨居の村人たちは、海にでて魚を捕ったり、山で小さな畑を作って暮らしていました。そのころ、鴨居の村から浦賀の町に行くには、さびしい小原と七曲がりの山の中を通らなければなりませんでした。
その小原のはずれに。おまんぎつねとよばれる女キツネが住んでいました。おまんぎつねは、いろいろと悪さをしては、村人を困らせていました。
さて、ある日のことです。小原に住む六兵衛じいさんは、竹の子を縄でくくりつけて、海辺の地主さんの家へ届けに行きました。六兵衛じいさんは、地主さんから竹藪の番を頼まれていたのです。いつものように魚をもらっての帰り道、六兵衛じいさんが七曲がりまでやってくると、まだ夕方にもならないのに、突然あたりが真っ暗になりました。さらに不思議なことに、いつも歩きなれた道なのに、いったいどこを通っているのか分からなくなってしまったのです。
「ははあん。キツネのやつ、またいたづらをしているだな。」
六兵衛じいさんは、魚を一匹ぽいと投げてやりました。そのとたん、あたりが明るくなりかけたと思ったら。またすぐに暗くなってしまったのです。
六兵衛じいさんは、今度は魚を投げてやりました。そして、明るくなりかけた道を大急ぎで駆け出しました。
明くる朝、鴨居に住む善造さんが、浦賀の町に仕事にいくため、畑の中の道を急ぎ足で歩いていると肥溜めのまわりを
「よいしょ、よいしょ。」
と駆け足で回っている人がいます。
「あれ、五市じゃねぇか。」
善造さんが、声をかけても五市さんは、気がつかず一生懸命に走っているのです。
「ううむ。やられた。さては、またおまんぎつねにやられただな。」
そうなのです。おまんぎつねは、このように五市さんを走らせて,そのすきに腰にぶら下げた弁当をねらっていたのです。
「おい、五市よ。しっかりせい。」
善造さんに背中をドンとたたかれて、五市さんはやっと走るのをやめました。
「遅くなるから走っていたけんど、何だ、まだだいこん畑にいんのかよ。」
五市さんは、ぽかんと口をあけ、信じられないような顔で、あたりをきょろきょろ見回しました。
「おめぇ。また やられただな。」
「あっ、弁当がない。」
腰にぶら下げていた弁当がいつの間にかなくなっていたんです。
ある夜のこと、仕事し帰りの佐吉さんが七曲がりの入り口まで来ると、姉さんかぶりをした娘が立っていました。
「暗くて怖いのです。いっしょに行っちゃくれませんか。」
夜目にもそれとわかる。鼻すじの通った。すらりと背の高い美しい娘でした。佐吉さんは、二つ返事で承知しました。夜道を一人で歩くよりは美しい娘といっしょの方が基部が良かったのです。
ところが、いい気分で歩いていた佐吉さんがふと気がつくと、娘はいつの間にか姿を消していたのです。
薄気味悪くなった佐吉さんは、急いで村に帰り、村人たちにこの話しをしました。
「そりや、きっとおまんぎつねにちがいねぇ。」
「キツネでも、きれいな姉さんとはうらやまししいねぇ。」
村人たちは、口々に言いました。
小原の道もしだいに大勢の人が通るようになると、いたづらキツネの話も村人の口の端にものぼらなくなりました。
その後、おまんぎつねがよくいたづらをした肥溜めのまわりや畑のかげに、秋になると真っ赤な彼岸花が咲くようにになりました。村人たちは、いたづらきつねをなつかしんで、いつしか彼岸花のことを「大キツネのかんざし」と呼ぶようになったということです。
観音崎・鴨居のむかし話
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