観音崎・鴨居のむかし話

   観音崎・鴨居には、昔から伝わる話がいくつかあります。
  ここでは、その中から4つの話を紹介します。
 たたらの浜 おまんぎつね  鵜と大蛇(おろち)と観音様 江戸もどり  土左衛門と海坊主 海賊退治 鯨つき
たたらの浜
ずっとむかし、鴨居の村を小田原の北条という人がおさめていたころの話です。村には、そりむかしから鉄の技術が広がり、腕の良い「かじ屋」が何人もおりました。貧しいけれど、みんなで助け合い、平和な毎日を送っていました。
 
 ある年の大晦日のことです。どこの家も、お正月の準備で大わらわのおり、小田原のお殿様より急ぎの使いがやってきました。
「村中のかじ屋を大急ぎで集めよ。」
 村人たちは、何事かと思い、村の広場に集まりました。すると使いの者は、
「村一番のかじ屋は、誰か。これより七日の間に、きず一つない大筒を一丁用意せよ。」
と、それだけを言い残して帰って行きました。
使いの者が帰った後、村は大騒ぎ。
「これより七日だと。」
「明日からお正月というのに。」
「めいっぱい働かなきやなんねぇ。」
「お正月位、ゆっくり休みてぇえよ。」
「第一、村中のなべ・かまを集めても大筒一丁できるほどの鉄は集まらねぇべぇ。」
 みんな自分が村一番のかじ屋だと思っていましたが、誰一人として名乗りをあげる人はいません。その時
「オレが作ろう。」
と、叫んだ人がいました。一同はビックリ。なんと村一番のお年寄りの小松のおじいさんが、声を出したのです。
 みんなで、おじいさんの顔をのぞき込みました。
「じいさん、そりゃあ、おめえさんの腕は、確かだ。」
「そうだ。」
「でもな。大筒を作るには、ちいっとばかり年をとりすぎていねぇべか。」
「うんだ。うんだ。」
「鉄はどうすんだ。今からではまにあわんだろう。」
 村人たちは口々に言いましたが、
「おれがつくる。」
 おじいさんは、もう一度、きっぱりと言いました。
 
 年が明けました。おじいさんは、浜でじっと海をにらんでいます。みんなの前でああは言ったものの、大筒一丁を作るだけの鉄を集めるあては、おじいさんにもありませんでした。何も考えがうかばないうちに日は暮れてしまいました。
 二日、漁師の船祝いの日がやってきました。船を旗で飾り、餅や酒をそなえ、一年の無事と大漁を祈るのです。漁師にとって一年のうちでもっとも楽しい日です。浜には、大人も子どもも多ぜい集まって来ました。
 しかし、小松のおじいさんだけは、浜にすわってじっと海をにらんでいます。
「おーい。じいさん。じいさんもこっちへ来て酒を飲まないかあー。」
 けれどもおじいさんは、腕を組んだまま動こうとしません。
 
 三日目の朝になりました。飲めや歌えやでお正月を楽しんでいた村人たちも、おじいさんのことが気になりはじめました。
「おい。もう二日すぎたんだけど、じいさんは、どうしているんだべぇなぁ。」
「さあなあ。昨日は、一日 浜にすわつていたけんど・・・」
「ちょっくら見てくんか。」
 そういって、若者が一人、おじいさんの様子を見に行きました。
 おじいさんは、昨日と同じ浜にすわっていましたが、やがて大きくうなづくと、すくっと立ち上がり、『いしがんぱち』(岩がけ)の方へ歩いていきました。
 
 『いしがんぱち』には、鵜がたくさん住んでいて、それが一斉に飛び立つと空一面 真っ黒になり、日の光もさえぎってしまい、その後、必ず大蛇が現れ、海を行く小舟をおそうと言う言い伝えがありました。
 そのため、村人たちは、気味悪がって誰一人として『いしがんぱち』には近づきませんでした。
 
 おじいさんは、目もくらむようなそのがけを、そろりそろりと 降りていきました。
 様子を見に来た若者は、がけの上から首だけ出して、下の方をのぞき込みました。
 おじいさんは、がけの下の砂浜までおり、足下の砂を手にすくって見つめています。
「じいさん、何してるだ。」
 若者の声に、おじいさんは、顔を上げて手の中の黒い砂を差し上げました。
「砂鉄じゃよ。」
 
 それから村は大忙しです。
 がけの上からとんで帰った若者の知らせで、もうお正月どころではありません。
 村中総出で大筒一丁分の砂鉄を集めると、今度は村に帰って鉄を選り、やがてゴウゴウと燃えさかる火で鉄を真っ赤に焼きます。
 ブアォー ブワォー
 火の勢いを強くするために、たたら(大きなふいご)で風を送る音が聞こえてきます。
 トンテンカン トンテンカン
 鉄を打つつちの音が聞こえてきます。
「間に合うのかよ。」
「間にあわせるんだよ。」
 休みなく働く間に お日さまが三回昇り、三回沈み、やがて約束の七日目がきました。
村の広場には、きず一つない立派な大筒がでんと すえられています。
 
 村中の人がおじいさんと大筒を取り巻いて、ニコニコしています。やがてお城からお使いの人がやってきました。
「すばらしい大筒じゃ。」
 そして、真新しい大筒は、運ばれて行きました。村中の人たちは、ほっと一息つきました。
 それからというもの、砂鉄の見つかった浜は、たたら浜とよばれるようになつたということです。
 

観音崎・鴨居のむかし話

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