仮面里神楽「鴨居とっびきぴー踊り」

 この踊りは、文化・文政(1804年−1830年)の頃より、半農半漁の鴨居村の漁場「脇方」に伝わっている郷土芸能です。
 この踊りは、すべて里神楽のお面をつかい、囃子のリズムにあわせて踊り、セリフはなく全くの無言で手振り身振りで、その情景をこまやかに表現するもので、まことに磯の香り土の匂いの高い簡素でしかも素朴さがにじみ出ています。
 これは昔から里人たちが須賀神社(現在は八幡神社に合祀されている)に大漁満足・五穀豊穣・海上安全等を祈念するに奉納したもので二十五座神楽の俗脱したものと考えられます。
 今日では、この踊りも獅子舞を中心とした「獅子退治」。狂言を俗化した「狐とり」 「餅つき」 「鯛つり」の4種類が残っているが、外道の出る獅子退治の他は、どれも「ひょっとこ」「ばか」が共に主役を演じ、「えびす」「おかめ」「狩人」「狐」「鬼」などがこれを助演して、おもしろさ、おかしさを十分あらわして大いに笑わせます。また、これらに用いる衣装は、簡素ながらもそれぞれ特色をだしていますし、持ち物も粗末であるが木製の鍬をはじめ、杵、臼それに釣り竿・鉄砲・網などを用意しています。
 それにともなう囃手は、囃方・大太鼓一人・小太鼓二人・当鉦一人・笛一人の構成で、踊りの種目に応じた曲目を奏ずるが、祭囃子や馬鹿囃子が主になっています。この囃子の調子から「とっぴきぴー踊り」の名も出たのです。
 もちろんこの踊りは、脇方の若者衆が夏祭りに須賀神社に奉納したものでありますが、多くは山車の上、または御輿の海上渡御に供御する囃子船で演じたものであります。
 ところが戦争のため長い間子の演出も絶たれ、危うく途絶えてしまう状態まで追い込まれたのですが、戦後昭和21年頃から夏祭りが復活し、それに伴って、この踊りの絶えることをうれいていた若者衆有志が、当時の高齢者に踊りの所作や囃子などを聞き教わり、復活できたのです。
 その後、鴨居小鵜学校の創立百年祭の出演を契機に、翌年昭和49年に横須賀市指定民俗文化財となりました。
 (残念ながら2001年、後継者難から横須賀市指定民俗文化財の指定をはずれました。)

(資料提供 鴨居とつぴきぴー保存会 八子会長)


◇獅子退治◇ 登場人物・・・・・外道・大獅子
 この踊りには、獅子と外道が出てきます。外道というのは、真理にそむく者のことをいい、その顔には邪悪の相があると言われています。
 さてその外道ですが、自分の宗教を広めるため村の中を歩く時には、いつも御幣と扇子を持ち、ぎょろりとした眼で、あたかも村人の心を見透しているように見えるので、村人からは大変気味の悪い人と恐れられていました。
 
 外道さん、今日も商売道具の御幣と扇子をもって村に説教に出かけました。その帰り道、ふと大きな獅子が道端の茂みで昼寝しているのを見つけてびっくり仰天してしまいます。
 さて外道さん、そのままそっと立ち去ればよいものを、日頃村人たちが己の宗教を畏敬なものとして見ていると思えば、こそこそ逃げ帰ることもできず、よせばよいのに「ひとつこの大獅子を生け捕りにして村人を驚かせてやろう。」と大それた考えを起こしてしまいます。
 いよいよこれから獅子大事が始まりますが、眠っているとはいえ相手は大獅子です。
 外道さん、全身の勇気を奮い起こし、全神経を集中して獅子に立ち向かいますが、結局眠っていた獅子を起こしてしまい、はじめの目的もかなえられず、ついに大獅子に頭から食われてしまいました。


◇狐とり◇   登場人物・・・・ひっとこ・ばか・狐

 森深く棲んでいる白狐は、快い小春日和につられて、久しぶりに野に出て来て浮かれ踊っています。やがて踊り疲れた狐は暖かいやぶかげて昼寝をしていました。

 
 さてこちらは村一番の働き者と自称する「ひょつとこ」は、鍬を担ぎ、「ばか」を連れて野良仕事に出かけます。この二人ですが、きびきびとした「ひょつとこ」に比べ「ばか」は、全くスローモーでいつもテンポが、ずれているのです。さて畑まで行く途中のこと「ひょつとこ」の後ろについて来た「ばか」は、ふとやぶかげに気持ちよく昼寝している狐を見つけ、鍬の先でいたずらをします。
 せっかくの昼寝のじゃまをされた狐は、大変怒るのですが、一応この場は、逃げてしまいます。
 とんだ道草をした「ばか」は、ようやく「ひょっとこ」に促されて畑に着きます。丘の上の畑は大変眺めがよく、さっそく野良仕事にかかりますが、一生懸命 鍬を使う「ひょっとこ」に比べ「ばか」はどうも怠けがちで全く能率が悪い。ともかく二人で協力して予定の耕作も終わったので、家路につきます。

 家に帰る途中で、先ほど「ばか」に昼寝をじゃまをされた狐が現れます。狐は、あたりの様子をうかがいながら「ばか」に近づきまんまと化かしてしまいます。「ばか」は狐のなすがままに、いろいろな仕事をさせられ、野をさまよっています。
 家に帰った「ひょっとこ」は自分の後についてきたものを思っていた「ばか」がいないことに気づきます。引き返し探しに行くと、やがて何ともしまらない格好をして歩いている「ばか」を見つけます。どうも様子がおかしいので、近づいて大きく一渇すると、ようやく我に返った「ばか」は狐に化かされたことを話します。話を聞いた「ひょっとこ」は、ひとまず家に帰って狐をこらしめるために狐とりのわなを用意します。

 やがて狐とりのわなと油揚げを持ち、狐の現れそうな場所に二人でわなを張って待ちます。油揚げの匂いをかぎつけて狐が現れるのですが、利口な狐はなかなか用心深く、乗ってきません。

 再三失敗したあげく、ようやく狐がわなにかかり、めでたく幕となります。


◇餅つき◇   登場人物・・・・・ひょっとこ・ばか・おかめ・鬼・狩人
 今日は暮れの二十八日、朝から雲一つない穏やかな餅つき日和で、あちらこちらから威勢の良い餅つきの音が聞こえてきます。

 
 「ひょっとこ」一家も朝から餅つきの支度にかかります。「ひょっとこ」は大きな臼をかかえ、その後より「おかめ」は湯気のたつセイロをかかえ、しんがりに「ばか」が杵を担いで登場します。臼を庭の中央にすえ、いよいよ餅つきが始まります。杵をうち下ろす「ひょっとこ」、手返しをする「おかめ」。なかなか二人とも息が合っているようです。
 さて「ばか」は座り込んで、もっぱら見物役。餅つきの途中、「ばか」は「ひょっとこ」の目を盗んで餅のつまみ食いをします。やがてあまり餅をほおばりすぎた「ばか」は餅をのどにひっかけてしまい目を白黒。手返しをしていた「おかめ」が気づき「ひょっとこ」に教えます。「ひょっとこ」は急いで「ばか」の背中に回り背中をさすったりたたいたりしてやり、やっと のどにひつかかった餅が取れました。
 とんだ一騒動のあと、また餅つきを続けますが、その餅がつき上がる頃、突如垣根越しに「青鬼」が登場します。三人はあわてふためき逃げるのですが、ショックで「ばか」が腰を抜かしてしまいます。ともかく「ばか」を引きずるようにして、やっとの思いで難を逃れるのでした。鬼はあたりを見回しながらやがて臼に近づき、つき上がった餅を臼ごと、悠々と持ち去ってしまいます。
 さて、難を逃れた「ひょつとこ」は村一番の狩人を頼み、鬼退治に出かけます。先頭は案内役の「ひょっとこ」、次に狩人、しんがりは先ほど腰を抜かした「ばか」。やがて、臼を小脇にかかえた鬼を見つけると狩人はねらいを定めてドンと一発。見事命中。鬼は虚空をつかみ、崩れるように倒れます。
 「ばか」と「ひょっとこ」はしてやつたりと大喜びです。 まずはめでたし、めでたし・・・・・。 


◇鯛釣り◇   登場人物・・・・・えびす・ひょっとこ・ばか・たこ
 空の色も海の色も青々と磯の香りにもはや初秋の快さを覚ゆるある日、えびす様は「ひょっとこ」と「ばか」をお供に連れて磯つりに出かけます。えびす様は、釣り竿を肩に「ひょっとこ」はツルハシをかつぎ、「ばか」は魚籠をぶら下げ登場。
 

 やがてえびす様は、磯岩の一角に腰を下ろし「ひょっとこ」と「ばか」にイソメをつかまえるように命じます。「ひょっとこ」はツルハシを振り上げイソメ掘りを始めるが、「ばか」はそれを見ているだけ。そのうち、はねた泥が「ばか」の目に入ってしまい「ばか」は両手で目をおさえ大困りです。「ひょつとこ」はツルハシのてをやめて「ばか」の顔をのぞきこむようにして目の泥をやっとのこと取ってやります。「ばか」はようやく一息。

 イソメも掘れて。いよいよ魚釣りが始まり、まもなく確かに魚信があり、徐々につり上げると、魚と思いしや、釣れてきたのは「わら草履」でした。
 さて次に釣り竿を弓なりにして、海面より顔を出してきたのは何と大きなタコです。さすがに大ダコ、なかなか上がってこないのですが、ようやくのこと上がって来た大ダコに「ひょつとこ」と「ばか」は大喜び。

 タコから釣針を外そうとするのですが、二人とも吸い付かれてしまい、なす術もありません。全くタコは始末が悪い。この有様を見て、えびす様は扇子で大ダコの頭を、パシッと一打ち。さしもの大ダコも、この一打ちに墨を吹きかけながら海中に逃げ去ってしまいました。「ばか」と「ひょっとこ」は、全くひどい目に遭ったと顔を見合わせ、えびす様のおかげで助かったとうなずきあいます。
 さて、気を取り直した「ひょっとこ」が改めて釣針に餌をつけると、えびす様は大きく釣糸を投げ込みました。今度は何が釣れるのやら・・・・。
 そのうち、釣竿の先が大きくしなり、さてこれは大物だと、「ひょっとこ」「ばか」は手ぐすね引いて待っています。と、波間より姿を現したのは、まぎれもない色鮮やかな見事な鯛です。
 「ひょっとこ」と「ばか」は威勢よくはねる鯛を釣針より外し、うやうやしくえびす様に捧げます。えびす様は、扇子を広げ「あっぱれ、あっぱれ」と二人の労をねぎらいます。えびす様は、鯛を小脇にかかえ、「ひょつとこ」と「ばか」を従えて家路に向かいます。
 ヒューシュ ドンドン まずはめでたし、めでたし

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